上記の映像は一見普通の動画に見えますが、実は普通の動画とは全く違った方法で撮影されています。超広角魚眼レンズと8Kカメラを組合わせた一台のカメラで撮影された動画を編集して4Kで書き出した映像です。
高解像度のカメラと広角魚眼レンズで撮影された映像から一部を切り出すこと(クロッピングワーク)で一台のカメラで多視点映像や異なるカメラワークの映像作成が可能になります。
オリジナル映像
オリジナルの映像は上記のような円周魚眼レンズで撮影されています。
この魚眼レンズで撮影された動画から映像をクロッピングして編集したのが冒頭の映像になります。
高解像度映像とクロッピングワーク
撮影機材の高解像度化
映像撮影機材が進歩していく中で、カメラはより高性能化しています。その中でも大きな進化を遂げているのが解像度です。HD(1280×720)の時代からFHD(1920×1080)の時代で本格的な高解像度映像が始まり、2016年頃には4K(3840×2160)で撮影できるカメラが標準的になりました。
そして8Kで撮影できるビデオカメラやシネマカメラが次々と発表になり、映像撮影機材は一気に高解像度化が進んでいます。
モニターサイズと解像度の問題
映像の解像度が上がれば今まで見えなかったものがより精細に記録できるようになります。しかし高解像度映像を観るためには、解像度に応じたサイズのモニターが必要になってきます。
例えばスマートフォンのサイズで4K映像が観られたとしても、モニターサイズが小さければ高解像度表示されても見づらくなるだけで、高解像度である必要性がなくなるのです。
そんなわけで映像が高解像度化するとともにテレビなどのモニターサイズはどんどん大きくなり、FHD用のTVモニターサイズは32〜40型くらいが標準的なサイズになっています。現在主流になりつつある4K対応テレビの場合は49〜60型くらいが標準的なサイズかと思います。
一般的なモニターサイズは4K止まり
このまま映像の高解像度化が進んで、やがて8K映像が標準的になったとすると、モニターサイズは70〜100型くらいが適当な大きさになるだろうと思われます。実際に現在発売されている8Kテレビのモニターサイズは下記のような感じです。
高解像度化は素晴らしいのですが、問題はサイズです。4Kテレビまでは一般家庭に置けるようなサイズでしたが、8Kテレビは一般家庭に置くにはかなり大きなサイズになってしまうのです。
もちろん展示場やオフィスなどの特定の用途では8Kモニターは必要な場所があるでしょうし、映像コンテンツ自体も8Kが必要な場面も沢山あるとは思いますが、一般家庭に置くことのできるテレビのサイズは49型くらいまでが限界だと思います。
つまり、49〜60型以上のTVモニターが普及しない場合、6Kや8Kなどの高解像度映像の用途は限定的なものになり、一般的には縁の無い無用の長物となってしまいそうな気もします。
しかしそれはあくまで6Kや8Kで撮影した映像をそのままのサイズで表示させようとした場合の話で、高解像度映像のメリットは精細な映像を大画面でも映し出せること以外にもあるのです。
高解像度映像のメリットはクロッピングワークとリサイズ時のシャープネス
世の中的に最も必要とされる映像の解像度は4Kになるものと思われます。なのでそれ以上の高解像度な映像がそのまま使われる場面は限定的であり、その多くは一部を切り出してクロッピングされるか、適当なサイズまでリサイズされて使用されることになります。
実は高解像度映像の最大のメリットはこのクロッピングワークとリサイズ時におけるシャープネスにあると思われます。
この点については8KシネマカメラのパイオニアでもあるRED Digital Cinemaでも言及されていて高解像度映像のクロッピングワークを駆使したサンプル映像も公開されています。8Kで撮影したオリジナル映像を4Kでクロッピングして編集するという方法です。
8K映像からの4K映像のクロッピング
魚眼レンズで撮影した高解像度映像からの切り出し
魚眼映像からの切り出し
高解像度映像から一部を切り出すクロッピングが実用的になる
カメラが高解像度で撮影できるようになると魚眼レンズが活用される場面が増えてきます。一度の撮影でなるべく広範囲を撮影できる魚眼レンズを使用すればクロッピングワークで後から様々な映像を切り出すことができるからです。
今まではカメラで撮影できる解像度=モニターで表示する解像度だったため、映像の一部をクロップしてモニターに表示してしまうと解像度不足になっていたのです。そのため、従来までの映像解像度では魚眼映像からの切り出しは画像が劣化するため実現が不可能とされていた方法でした。
しかしカメラの高解像度化により、カメラで撮影できる解像度の方がモニターで表示する解像度の方がモニターで表示する解像度を上回ってきたので、今まで不可能とされていた一つの映像から複数の映像の切り出しが可能になったのです。
従来までの常識を覆す映像表現が可能になる
円周魚眼レンズで撮影した映像から一部をクロッピングする方法では、一台のカメラで多方向の視野の映像を切り出すことができるようになります。
この方法であれば、今までの撮影方法では難しかった状況でも撮影が可能になるなど、映像表現の幅や撮影効率の向上などが期待できるようになります。
例えば、通常のレンズでは撮り逃してしまうような決定的瞬間もカメラワーク無しで確実に捉えることができるのです。
魚眼レンズならではの手法
広角レンズでも広範囲が撮影できるため高解像度映像から一部を切り出す(FISH and CROP)が出来そうに思いますが、レンズ側で歪みを補正している広角レンズで撮影できる映像は周辺のパースがきつくなり画像の歪みが大き過ぎるため中央部分でないとクロッピングして使用することができません。
レンズの歪みを残した魚眼レンズで得られる広角なイメージと高解像度カメラの組み合わせで実現できるクロッピングワーク(FISH and CROP)は魚眼レンズだからこそできるのです。
今まで使用用途が限定されてきた魚眼レンズですが、映像機材の高解像度化とともに、新しい手法や技術が登場し、広角で高品質な魚眼レンズの需要が日々高まっているという状況です。
超広角な魚眼レンズと高解像度カメラの組み合わせは、これからの高解像度時代に最も注目すべき映像機材と言えるでしょう。
魚眼レンズの歪みの補正方法
AdobeのPremireやAfterEffects、DaVinch Resolveなどの映像編集ソフトで使用できるプラグインであるRE:Lensの中にあるSuperfishプラグインを使用して魚眼レンズの歪みを補正します。
RE:LensのSuperfishプラグインは、球形の映像ををLatitude と Longitudeに展開したLatLongと呼ばれる図式に展開することで魚眼レンズの歪みを補正することができます。
上記の解説動画を確認していただくと理解しやすいと思いますがRE:LensのSuperfishを適用すると、歪んだ円周魚眼映像が、広角レンズで撮影したような歪みのない映像に変換されます。
詳しい手順については動画内の「字幕」で解説していますので、ここで使用方法についての解説は省略させていただきます。
この方法により、一つの映像からいくつもの視野の異なる映像を書き出すことができます。書き出した複数の映像を編集することで一台のカメラで撮影された映像から複数のカメラで撮影されたような映像を作りだすことができるのです。