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220度の超広角魚眼レンズであるEntaniya Fisheye HAL 220 PLをARRI社のハイエンドシネマカメラ ALEXA LFと ALEXA MINI LFに取付けテストを行いました。
ARRI ALEXA LF / ALEXA MINI LF
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ハイエンドシネマカメラ ARRI ALEXA LF
ARRI ALEXA LF / ALEXA MINI LFはハリウッド映画などの撮影で使用されるシネマカメラの最高峰とも言えるカメラで、ラージフォーマット(Large Format)と呼ばれるフルサイズのセンサーを搭載したハイエンドシネマカメラです。
映画産業や映像分野に携わる人にとっては「いつかはARRI ALEXA LFを使った撮影がしてみたい」と思うような憧れのカメラでもあります。
インタニヤが魚眼レンズの開発を始めた当初は知る由もないくらいに遠い存在のカメラでしたが「せっかくレンズを開発するのであればハイエンドカメラに取付けられるような最高のレンズを!」という気持ちから、いつしか「ARRI社のカメラにEntaniya Fisheyeを取付けたい」という思いが強くなってきました。
しかしながら、これまでのインタニヤの魚眼レンズはARRI社のカメラのマウントであるPLマウントに適合したレンズではなかったためARRI社のカメラへの取付けは、まだまだ遠い夢のように思っていました。
PLマウントの超広角魚眼レンズ HAL 220 PL
「ARRI社のカメラにインタニヤの魚眼レンズを取付けたい」という要望を世界中の映像クリエイターからいただくようになったことをきっかけにPLマウントのレンズを開発をスタートさせ、紆余曲折を経て発表できたレンズが220度の視野角を持つ超広角魚眼レンズのEntaniya Fisheye HAL 220 PLでした。
Entaniya Fisheye HAL 220 PLはその名前からも判るように220度の視野角とPLマウントに対応したレンズです。
Entaniya Fisheye HAL 220 PLのイメージサークルサイズは今までインタニヤが開発してきたどのレンズよりも大きく、イメージサークルサイズを最大にした場合には、映像系のカメラのスタンダードなセンサーサイズであるスーパー35センサーをカバーします。
これにより今までインタニヤのレンズが多く使用されてきたVR分野だけでなく、アクションカメラのような超広角映像を撮影するためのレンズとして活用されるようになりました。
このレンズのお披露目となったハリウッドのParamount Studioで開催されたCineGear Expo 2019では革新的なプロダクトに与えられるテクニカルアワードを光学部門で受賞することができました。
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ARRI Rentalの協力でテストが実現
ドイツ・ミュンヘンへ
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そんなある日、Entaniya Fisheye HAL 220 PLをARRI ALEXA LF / ALEXA MINI LFでテストする機会を得ることができました。ARRI Rentalの協力でARRI ALEXA LF / ALEXA MINI LFを手配してもらえることになったのです。
善は急げとばかりに、急遽Entaniya Fisheye HAL 220 PLを持参して、ARRI社の本拠地であるドイツ・ミュンヘンへ渡ります。
ARRI Rentalでの準備
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シャープニングでの評価
ARRI RentalにEntaniya Fisheye HAL 220 PLを持ち込み、早速ALEXA LFへ取付け!
・・・と言いたいところですが、まずはシャープニングと呼ばれる作業が行われます。
シャープニングはレンズとカメラそれぞれの組合せに合わせたベストなフォーカスを得るための作業で、専用のマシーンを使用して行われます。レンズのコントラストや解像感なども全て数値化されて出てくるため、シャープニングによってレンズの性能がどの程度なのかの評価もできてしまうのです。
レンズの評価が出るまでかなり緊張の時間でしたが、技術者の方から「コントラストも高くて、中央と周辺との差もすくない非常に良いレンズ」というお褒めの言葉をいただき一安心するとともに、今まで一流メーカーの多くのレンズを見てきただろう方から良いレンズだと評価されたことを非常に嬉しく思うのでした。
Made in Japanのものづくりの矜持を示すことができ面目躍如と言ったところです。
レンズ後部の出っ張りの問題もクリア
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Entaniya Fisheye HAL 220 PLは次世代のレンズであるミラーレスカメラなどに適合するようなフランジバックを採用しているため、一般的なシネマカメラのレンズ形式であるPLマウントにしてしまうと、マウント部分よりも後部にレンズが飛び出したデザインになっています。
そのためレンズのボトム部分をカメラ内部に挿し込む形で使用することになり、カメラ内部のセンサー前にフィルターなどがあるカメラではレンズの後部がカメラ内部と干渉してしまい取付けられないという問題が発生することがあります。
例えばインタニヤの別の魚眼レンズであるHAL 250 EFマウントレンズはシネマカメラのRED DSMC2に取り付けて使用する人も多いですが、カメラ内部にあるOLPFと呼ばれるフィルターとレンズ後部が干渉してしまいます。幸いRED DSMC2はOLPFを取り外すことができるので干渉の問題を回避できますが、カメラによっては取付けできなくなる場合もあるのです。
数値である程度判断はできますが、実際に取付けなければ判断しづらいこともあり、問題が発生しないかどうか、直前まで「取付けられるかどうか」でドキドキしてしまいましたが、無事にARRI ALEXA LF / ARRI ALEXA MINI LFに取り付けることが出来ました。
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イメージサークル
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上記はALEXA LFのLF Open Gateと呼ばれるモードでのセンサーサイズとイメージサークルの図になります。
最大のイメージサークルになる焦点距離8.03mmでは上下185度が収まります。
360VR撮影するには前後を撮影した素材をステッチするための上下のマージンが185度では少し少ないので焦点距離7.7mmに変更してイメージサークルを少し小さくして上下195度入るように調整すれば、十分なマージンを得ることができベストなサイズになります。
円周のイメージも得られる
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今回のテストでは円周魚眼になるような映像が欲しかったため、焦点距離を6.63mmに設定して撮影が行われました。上記は焦点距離を6.63mmに変更した後の映像です。計算通りに綺麗に円周のイメージがセンサーに収まりました。
ちなみにRED MONSTROやRED HELIUMでもPLマウント対応にすればEntaniya Fisheye HAL 220 PLを使用することができますが、焦点距離を7mm以下にして使用する場合はレンズの後部がセンサーに近づくため、カメラ内部のフィルターと干渉する可能性があるのでOLPFを取り外すなどで注意が必要です。(Entaniya製の専用OLPFで代替えできます。)
ARRI ALEXA LFを使用した場合のイメージサークルは下記のpdfで参照いただけます。
https://products.entaniya.co.jp/wp-content/uploads/2019/06/ARRI.pdf
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ALEXA LFにEntaniya Fisheye HAL 220 PLを取付けた様子です。流石に近づくのも怖いくらいの神々しさがあります(汗)。準備も無事に終了して、いよいよ屋外での撮影テストとなります。
撮影テスト
ALEXA MINI LF
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ALEXA LF
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撮影テストはALEXA LFとALEXA MINI LFで行われました。ALEXA LFには高フレームレートが要求されるような用途でのメリットがありますが、今回のテストでは小型で内蔵NDのあるALEXA MINI LFの方が自由度が高く扱いやすい印象でした。
ARRI社のカメラは昨今流行りの8Kなどの高解像度な映像は撮影できませんが、画質を左右するセンサーのピクセルが大きいので、暗所でもノイズが乗りづらく映像が美しいことで知られています。
撮影テストは明暗差が大きな場所や強い逆光、暗い場所など、撮影条件としては厳しい中で行われましたが、いずれの環境でもその性能を発揮して高画質な映像を撮影することができていたことに驚かされました。
その超高画質なハイエンドシネマカメラの画質に負けないような性能がレンズにあるかどうかを試されるテストだったので非常にプレッシャーを感じるものでした。
結果
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撮影した映像をEquirectangular形式に変換したサンプルです。
明暗差が激しかったり、厳しい角度からの逆光、日没後の薄暗い中など、控えめに言って通常の撮影では厳しい条件の中でのテストでしたが、大変良い結果が得られたと思います。
厳しい環境の中でも白飛びや黒つぶれ、ノイズがほとんど無いのは流石ですが、大きなセンサーのもたらす雰囲気のある映像は感動するレベルのものでした。
Entaniyaのレンズも周辺までシャープネスを保てること、逆光に対するフレアやゴーストが少ないこと、収差が殆ど無いことなどを実証でき、大変収穫の多いテストとなりました。
解像度(Equirectangular)
● 焦点距離 8.03mm (H:220 V:185) 解像度 6000 x 3000
● 焦点距離 7.70mm(H:220 V:195) 解像度 5800 x 2900
● 焦点距離 6.33mm(H:220 V:220) 解像度 4700 x 2350
Equirectangularでの解像度は焦点距離や設定によって変わります。
上記の数値はLF Open Gateでの撮影で得られる目安の解像度となります。
謝辞
今回のテストで快く協力していただいたARRI Rental(https://www.arrirental.com/)および、切っ掛けを作っていただいたChristian Felder(http://christianfelder.com/)とシネマトグラファーのSimon Preissinger氏(https://www.simonpreissinger.com/)に心からの感謝を申し上げます。